市域の7割を森林が占める豊田市は、林業会社「西垣林業」(奈良県桜井市)と手を組み、県内最大の製材工場を建設する。荒れた山林に手を入れ、課題だった間伐材の有効利用を図るのがねらい。基礎自治体が独自に製材工場を誘致するケースは珍しいという。

 市森林課によると、東海3県でも屈指の規模となる製材工場は、同市御船町の市有地に建設される。造成は市がし、工場を建設する同社には市から補助金を交付する。年に3万~5万立方メートルの原木を加工する能力を誇り、2018年度の操業を目指している。

 同社によると、原木となるスギやヒノキは同市や県内を中心に集め、主に住宅用建材やチップ材などに加工するという。従業員は23人でスタートする予定で、17人は地元から採用する。基本的には国産材を100%使用する方針で、西垣社長は「国産材の価値は注目されており、将来的には『豊田ウッド』というブランドにして販売したい」と意気込む。

 同市にとって、人工林の手入れは喫緊の課題だ。東海豪雨では市内を流れる矢作川の上流域を中心に、人工林が根こそぎ流される「沢抜け」が大量に発生。矢作ダムに大量の流木が押し寄せ、下流の市中心部も未曽有の被害に見舞われる寸前だった。「山の手入れ」と「間伐材の有効利用」を一気に解消しようと検討した結果が、大規模製材工場の誘致だった。

 市は6月、業者を公募したところ、県内外から3社が名乗りを上げた。製材施設運営のノウハウを持ち、県内や近隣での販売戦略に明るい同社が、原木の地産地消を掲げた同市の方向性とマッチし、今回の誘致につながったという。
 10月22日に市役所であった調印式で太田稔彦市長は「15年前の東海豪雨では、山の荒廃が問題になった。市民の命を守るうえでも木材の有効利用に期待したい」と話した。

 一方、課題もある。製材工場が完成しても、山から原木を切り出す組織が、市内には「豊田森林組合」しかないという。

 同市の原田裕保産業部長は「今後は伐採作業員の確保と育成が必須。森林組合や西垣林業と様々な方策を考えていきたい」と話した。(安田琢典)