独VW社の不正を今糾弾した、米当局の強かなTPP市場戦略
日本が、TPP(環太平洋連携協定)締結を目指すこの時期にあって、協定の対象品目である自動車に関わるVW社の不正の影響は、どの様に関わるのか考えます。
独フォルクスワーゲン社(VW社)のディーゼルエンジン搭載車の廃棄ガスを抑える低公害技術には、筆者は首をひねっていました。
と言うのは、トヨタが欧州進出した頃のVWのディーゼル車の性能は、トヨタのそれと比べて大差無かったからです。
グローバル化を目指すトヨタ自動車は、日本では不評だったディーゼルエンジン搭載車を国内でも久し振りに投入した当時ならまだしも、ここ何十年も経った近年至るまで、欧州のディーゼル市場でのVWの地位は不動なのは、余りにもその他地域のそれと比較しても不自然に思えていました。
その不自然さは事実あったのでしょう、欧州に飛び込んだトヨタは実感していたのです。その頃からこの火種があったのかも知れませんし、もしかしたら市場不透明性から欧州自動車メーカーは知っていながら見守っていたかも知れません。
それはさておき、そのジレンマと闘いながらもトヨタは市場拡大をゆるめませんでした。
日本市場低迷化が予想されアメリカ市場でも低迷する時代、欧州市場開拓はトヨタとっては背水の陣だった筈ですから。
さて、こうした背景の中欧州での低公害・低燃費ディーゼル車はステータスであり、避けては通れない最重要課題ですが、そう言った空気が欧州市場を狙う自動車企業には重くのしかかっていた背景があります。
欧州市場での内輪(名実欧州車の看板)だったVW社と、新参者(看板を奪う)のトヨタ自動車では、ディーゼル性能評価の公平性に自ずとハンディがあったと思われるのです。
それでもトヨタは、伝家の宝刀「トヨタ方式」による改善に継ぐ改善で、ディーゼル車においても欧州市場で一定の評価を得られるまでになってきました。
そう言った経緯もあったトヨタのノウハウを持ってすれば、VW社のディーゼル車の低排気ガス技術に疑問を持つ様になったのも不思議ではなかった筈です。
事実ここに来てトヨタ自動車は、欧州の規制団体へ以前から取り締まりを再三要請していたことが判明したのです。(「日経エコロジー」取材)
しかし、その要請は当時一部の英マスコミによって報道されたに留まり、明るみにされないまま二社のディーゼル車の闘いの舞台は最も規制基準の厳しいとされるアメリカへ移ります。
かつての米自動車大手ビッグ3が、成りを潜めた米市場においてトヨタとVWは、世界のトップシェアを巡って闘います。
トヨタはその市場でリコールの洗礼に遭いながらも真摯に潜り抜ける一方で、VW社は今回の不正と言う形で、ホームグラウンドを離れたアメリカで糾弾に至ったのです……。
さて今回筆者が言いたかったのは、こうした一連の話題を通して見えてくるアメリカの強かさです。
アメリカは、欧州の様に本来囲いたいビッグ3でさえ容赦なく競争の波に野放しにする程、市場の健全化を最優先にする市場だと敢えてアピールした事で、米は様々な点で優位に立つチャンスを得たと言えるでしょう。
それは米大手自動車メーカーの市場拡大のチャンスであり、アジア関連で言えば、前者によってTPP対象製品である自動車のアジア輸出の市場拡大に繋がる道筋をつける事です。
ここへきて、IT市場に於いては言うに及ばず自動車市場でも、アメリカは優位性を展開する強かさを示したと言えるでしょう。